保険の給付制限とは?健康保険が使えない理由
保険の給付制限とは、病気や怪我による受診で保険給付の範囲には入るが、常識的におかしい!とか、他の人から賠償されるべき!という場合に、健康保険の一部または全部の支払いをしないよう制限することです。
そもそも保険給付とは、病気や怪我で病院に行ったとき、公的医療保険(健康保険)を使って医療サービスを受けると医療費の負担が1〜3割になりますよね。7〜9割分の医療サービスを「保険給付」または「療養の給付」といいます。
しかし、
- 交通事故など他人に賠償してもらうべきもの
- 自傷行為やケンカなど自業自得によるもの
- 病院に行ってないのにお金を受け取ろうとするなど詐欺行為によるもの
これらまで、みんなが支払ったお金を使って保険給付するのは「なんか違う」ので制限しようというわけです。これが「給付制限」の考え方です。
この記事では、どういう場合に保険の給付制限がされるのか?について図解で説明していきます。
- 保険の給付制限の理由は社会通念=常識で考える
- 給付制限になるのは、自傷行為、ケンカ、交通事故、詐欺など
- 交通事故やケンカは給付制限となるが、健康保険で立て替えることができる
保険給付の範囲(療養の給付)
保険とは、みんなでリスクを分かち合う仕組みのことです。保険には、健康保険、介護保険、雇用保険、医療保険、火災保険、自動車保険などの種類があります。
公的医療保険(健康保険)は、病気や怪我になったときのリスクを分かち合っており、どんなときに使えるか?という「保険給付の対象」は、国が法律で細かく決めています。
- 診察
- 薬剤または治療材料の支給
- 処置、手術その他の治療
- 在宅で療養する上での管理、その療養に伴う世話、その他の看護
- 病院や診療所への入院、その療養に伴う世話、その他の看護
- 業務上や通勤途上の怪我
- 単なる疲労や倦怠感
- 美容整形、脱毛、シミ取りレーザー
- 歯の審美矯正、ホワイトニング
- 正常な妊娠、出産
- 健康診断、人間ドッグ
- 予防接種
- 経済上の理由による妊娠中絶
- 死亡診断のためのCT撮影
保険給付の対象外については「保険給付の基本と範囲!出産や予防接種が保険適用外の理由」で詳しく説明していますので読んでみてくださいね。
保険給付の基本と範囲!出産や予防接種が保険適用外の理由
保険の給付制限となるもの
「保険給付の対象外」と「保険の給付制限」の違い
(いらすと)給付制限と対象外の範囲についてのベン図
「保険給付の対象外」と「保険の給付制限」の違いは、
- 保険給付の対象外とは、そもそも公的医療保険(健康保険)は使えないもの
- 保険の給付制限とは、保険の対象だけど常識的に考えて給付するのは違うもの
故意の自傷行為(精神疾患に起因する場合は保険給付される)
故意の自傷行為(自分で自分を傷つける行為、自殺未遂など)は、基本的には公的医療保険(健康保険)の目的から外れるので給付制限となります。
公的医療保険(健康保険)は「みんなが背負う怪我や病気のリスクをみんなで分け合い、みんなで支え合う」のが大前提のコンセプトです。
しかし、故意の自傷行為は「この痛み…カ・イ・カ・ン!ヒャッハー!」な人を除き、好き好んでされるものではないと考えられています。何かの辛いことがあって、メンタルが弱り、耐えきれず自分を傷つけてしまう。
つまり、前提として精神疾患があって、その症状の一つとして自傷行為をしてしまうのであれば、精神疾患は病気ですから給付制限には引っかからず、健康保険を使うことができます。
それまで精神科とか心療内科に通ってなくて、リストカット→救急で病院に行った場合もそうなるん?
正直、対応は病院で違うけど、多くの場合は何らかの「精神疾患の病名」をつけてレセプト請求すると思うよ
なんで??
考えられる理由は、次の2つかな
- 自傷行為する人に10割の医療費を請求するのは酷だ、という感情的な理由
- 10割の医療費請求をしたら患者さんが支払えない可能性もあるけど、保険請求すれば7〜9割はお金が入るという、病院経営の現実的な理由
なるほど
交通事故による怪我(第三者行為)
交通事故による怪我は(自損事故などはさて置き)不法行為であり、公的医療保険(健康保険)ではなく、加害者からの損害賠償で賄われるべきものという考えのもと、給付制限となります。
加害者からの損害賠償で支払われるということは、多くの場合、加害者が加入している自動車保険と自賠責から支払われることなりますが、実際には過失割合(どっちの方が悪いのか?6:4や7:3などの割合のこと)が決まらないということがあります。
その場合には、一時的に公的医療保険(健康保険)を使って医療サービスを受け、あとから保険者が損害保険会社に請求するということも可能です。
加害者が任意の自動車保険に入っていない場合も同じです。
自動車事故の被害者にもかかわらず、給付制限にかかるから医療費10割を負担しろ、というのはおかしいので、被害者は公的医療保険(健康保険)を使い、保険者が被害者に請求するという事務をしているのです。(これを第三者求償といいます)
飲食店や仕出し弁当を原因とする集団食中毒(第三者行為)
飲食店や仕出し弁当を原因とする集団食中毒は、公的医療保険(健康保険)ではなく、加害者である飲食店や仕出し弁当屋さんの会社からの損害賠償で賄われるべきものという考えで給付制限となります。
しかし、実際には、下痢や嘔吐という症状から、いきなり集団食中毒を疑うことはほとんどなく、原因不明であることが多いと思います。
自動車事故のときと同じように、被害者にもかかわらず、給付制限にかかるから医療費10割を負担しろ、というのはおかしいので、被害者は公的医療保険(健康保険)を使い、保険者が被害者に請求するという事務をすることになります。(これを第三者求償といいます)
実際には数が少ないと思うけど…
それはなんでなん?
病院がレセプトの特記事項に「10 第三」を入れるか、被害者が保険者に届出を出すかくらいしか気づきようがないからね
ケンカ、泥酔、違法薬物による怪我など
ケンカ等による怪我は不法行為であり、公的医療保険(健康保険)ではなく、加害者からの損害賠償で賄われるべきものという考えのもと、給付制限となります。
ケンカと疑わしい怪我で受診された場合、医療事務は毅然とした態度で「なぜ怪我をしたのか?事件性はないか?」患者さんから聞き取る必要があります。(事件性があれば警察に通報しなければなりません)
しかし、これも自動車事故や集団食中毒のときと同じように、まったく非のない被害者にもかかわらず、給付制限にかかるから医療費10割を負担しろ、というのはおかしい話です。
被害者は、公的医療保険(健康保険)を使って医療サービスを受け、保険者が被害者に請求するという事務をすることになります。(これを第三者求償といいます)
正当な理由なく医師の指導に従わなかったとき
正当な理由なく医師の指導に従わなかったとき、保険給付の一部が制限される場合があります。
これはなかなかイメージできひんな…どういうケースなん?
(にっこり笑ってごまかす…)
わからんのんかーい!
詐欺その他不正な行為で保険給付を受けたとき、または受けようとしたとき
詐欺その他不正な行為で保険給付を受けたとき、または受けようとしたとき、保険給付の一部が制限される場合があります。
病院の受付窓口で発覚することはなく、レセプトで保険者に請求した後にわかることが多いです。
芸能人であるローラさんの父親が起こした事件が有名だね
あれか!…結局、どういう事件だったん?(しらん)
実際には受診していないにも関わらず、海外で医療を受けたことにして、日本の公的医療保険(健康保険)の保険者に請求したっていう詐欺だね
海外で受けた医療にかかる費用の一部を日本の公的医療保険(健康保険)に請求できる制度(海外療養費)については、また別の記事で説明しますね。
保険者の文書の提出命令や質問に応じないとき
保険者の文書の提出命令や質問に応じないとき、保険給付の一部が制限される場合があります。
これは上記のローラさんの父親が起こした事件ではありませんが、保険者から「この保険給付について、詳しく聞かせてください」という質問がある場合があります。
- 詐欺行為じゃないか?
→ 本当に保険給付の事実があるのか証拠書類を提出してください - 第三者行為(交通事故やケンカによる怪我)じゃないか?
→ ケンカによる怪我ではないという書類を提出してください
保険者からの照会を拒否した場合に、保険給付の一部が制限される可能性があるということです。
なんらやましいことがなければ、ちゃんと保険者が求める対応をすればOKですから、安心してください。
まとめ
さていかがでしたか。病院に受診する立場では、健康保険の給付制限はあまり意識したことがないかもしれません。
しかし、医療事務の現場ではさまざまな理由で受診する患者さんがおり、ときには毅然とした態度で「これは保険は使えないんです」と説明する必要があります。
そのときに、なぜ健康保険が使えないのか?という理由、考え方を知っておくと、ちゃんと説明することができるので、きちんと学んでおきましょう!