保険給付の基本と範囲!出産や予防接種が保険適用外の理由
保険給付とは、病気や怪我で病院に行ったとき、公的医療保険(健康保険)を使って医療サービスを受けることを「保険給付」または「療養の給付」といいます。
「これは保険で認めます!」「これは保険では認めません!」とあらかじめ保険が使えるサービスの内容(=保険給付の範囲)が決められています。
病院のサービス全部、保険使えるんとちゃうの?
みんなで支え合う保険の原則、覚えてる?
- 保険給付の範囲は決まっている(保険適用)
- 健康保険が使えそうで使えないのは、労災、出産、健診、予防接種!
- 交通事故やケンカ、自傷行為も原則、健康保険は使えない(給付制限)
みんなで支え合う保険の原則
そもそも保険とは何でしょうか。
保険とは、みんなでリスクを分かち合う仕組みのことです。保険には、健康保険、介護保険、雇用保険、医療保険、火災保険、自動車保険などの種類があります。
それぞれどんなリスクを分かち合っているかというと、
- 健康保険や医療保険
→ 怪我や病気になるリスク - 介護保険
→ 介護が必要になるリスク - 雇用保険
→ 失業など働けなくなるリスク - 火災保険
→ 地震や家事で家を失うリスク - 自動車保険
→ 自動車事故により人に怪我をさせたり、物を壊してしまったりするリスク
これらのリスクをみんなで分かち合う仕組みが、保険です。
具体的にどうやってリスクを分け合っているかというと、常日頃からお金を出し合っておきます。
そして、必要になったとき(保険が決める条件を満たしたとき)、お金を受け取ることで、リスクを分かち合っているのです。
公的医療保険では、この「怪我や病気になったとき」という条件を国が法律で細かく決めているのです。
保険給付の範囲(療養の給付)
国が法律で細かく決めている「保険給付の対象」はさらっと流し見して、保険が使えないものを理由といっしょに知っておきましょう。
なかには「意外!これ保険が使えないの?」というものがありますよ!
- 診察
- 薬剤または治療材料の支給
- 処置、手術その他の治療
- 在宅で療養する上での管理、その療養に伴う世話、その他の看護
- 病院や診療所への入院、その療養に伴う世話、その他の看護
- 業務上や通勤途上の怪我
- 単なる疲労や倦怠感
- 美容整形、脱毛、シミ取りレーザー
- 歯の審美矯正、ホワイトニング
- 正常な妊娠、出産
- 健康診断、人間ドッグ
- 予防接種
- 経済上の理由による妊娠中絶
- 死亡診断のためのCT撮影
ん?出産?鶏やがワシのワイフは保険を使って卵(≒ヒヨ娘)を産んだがな!
帝王切開だったんじゃない?
せやで!
正常分娩は保険が使えないけど、帝王切開みたいな異常分娩は保険が使えるんだよ!
それでは、保険給付の対象外のなるものを一つずつ理由付きで確認していきましょう。
保険給付の対象外となるもの
業務上や通勤途上の怪我
業務上や通勤途中のケガは労働災害、いわゆる労災(ろうさい)の対象範囲になります。
つまり、公的医療保険(健康保険)からではなく、労働保険から給付されます。
保険は保険でも使う保険が違いますよ!ということですね。では、どうして明確に「健康保険の対象外」としているのでしょうか?
日常のケガや病気と違い、労働しているときにケガや病気、死亡したときは
- 会社(使用者)に責任がある
- 労働者が働けない期間の補(お金)が必要になる
- 労働者が亡くなった場合は遺族への補償(お金)が必要になる
といったことが必要になります。
会社側の隠蔽(労災隠し)を防ぐため、病院側に労災発見のインセンティブが付与されています。通常1点=10円の診療報酬が11.5〜12円に設定されているなど、病院側の収入が1.2倍くらいになるように制度が作られているんですね。
うまい具合にできとるんやな
それだけ労災隠しがあるってことだね
ただ「会社行く途中でこけて…」みたいな些細なときまでホンマに労災してんのかいな
(にっこり笑ってごまかす)
単なる疲労や倦怠感
単なる疲労や倦怠感も、保険給付の対象外です。「疲労」や「倦怠感」という病名だけで、お薬を処方することはできません。
なんやと!?こんなに一所懸命働いとるのに「身体がだるい、疲れた」で病院に行ったらアカンっちゅーんか!?
違う違う、それは主訴=患者さんの訴えだね。
患者さんはそれでいいんだ。
お医者さんは患者さんの声だけでなく、診察や検査から専門的な知見でもって医学的判断をしなきゃいけないってことだよ!
つまり?
ストレスによる神経症なのか?身体のどこかが悪いのか?医学的に判断して病名をつけろってことさ
なるほどな!
美容整形、脱毛、シミ取りレーザー
美容目的の形成外科、医療脱毛、シミ取りレーザーなども保険給付の対象外です。注意したいのが手術や処置の内容で保険が使えるかどうか決まるわけではないという点です。
たとえば、美容整形外科の病院ホームページにもある「眼瞼下垂術」などは、保険適用の人もいれば、保険適用外の人もいます。
瞼の筋肉が弱く、おでこの筋肉を使って目を開かなければならない、偏頭痛などを引き起こして日常生活に支障があるといった場合は保険適用になりますし、美容目的であれば保険適用です。
個々人の症状だけではなく、保険が使える病院か、保険が使えない病院かという違いもあります。
歯の審美矯正、ホワイトニング
美容目的の歯列矯正、歯のホワイトニングは保険給付の対象外です。
歯科の分野は、銀歯は保険診療の範囲ですが、見た目を気にしてセラミックにすると自由診療になるように、医科の分野よりも自由診療が身近にあります。
ここのあたりについても、いつか詳しく記事を書きたいですね。
正常な妊娠、出産
正常な妊娠、出産は保険給付の対象外です。「妊娠・出産は病気ではない」という考え方をしているため、健康保険からの保険給付対象外なのです。
妊娠がわかったとき、役所から母子手帳をもらうと「妊婦健診」のチケットがついています。この妊婦健診の範囲内で出産までの健診を受けますが、何か異常があってこの回数を超えると自費になります。
そして出産。正常分娩と呼ばれる普通の出産(無痛だろうが何だろうが)は、保険給付の対象外です。帝王切開は異常分娩となり、保険給付の対象となります。
- 正常分娩(自然分娩)
→ 保険給付なし
- 異常分娩(帝王切開)
→ 保険給付あり
正常分娩(自然分娩)のとき、出産に必要な費用は全額自己負担なのかというと、そうではありません。子どもを産んだ場合に健康保険の保険者からもらえる「出産育児一時金」というお金を出産費用にあてることになります。
出産育児一時金は、大体一律で42万円です。
そのため、病院によって必要な費用が違うのですが、42万円より安い病院で出産したときは差額を受け取ることができますし、42万円より高い病院で出産したときは上回った金額を自費で負担する必要があります。
日本も少子化で困ってるなら、妊婦健診も出産も全額負担させるべきやないと思うで!
菅元首相は今まで完全に自費だった不妊治療への保険適用を決めたね!少しずつ変わるといいね!
出産育児一時金については、別の記事でまた詳しく解説しますね。
健康診断、人間ドック
健康診断(いわゆる健診)や人間ドックは保険給付の対象外です。
公的医療保険(健康保険)は、怪我や病気など「身体に異常」を感じたときに病院に受診して使えるものです。
健康診断(健診)や人間ドックは、身体に異常を感じなくても「今、健康かどうか」という健康状態を確認するものなので、「健康保険」を使うことはできないという考え方です。
健康診断(健診)や人間ドックでの検査数値で異常が見つかり、精密検査などで病院を受診した場合には、「身体に異常」があって受診するわけですから「健康保険」を使うことができます。
予防接種
予防接種は、保険給付の対象外です。
公的医療保険(健康保険)は、怪我や病気など「身体に異常」を感じたときに病院に受診して使えるものです。つまり、異常の発覚後に使えるものであって、予防医療に使うことはできないのです。
経済上の理由による人工妊娠中絶手術
経済的な理由による人工妊娠中絶手術は、保険給付の対象外です。
妊娠中絶手術は、妊娠の週数によって手術の方法と法律的な取り扱いが違います。
- 12週未満
→ 掻き出す or 吸引する(日帰り手術可能) - 12〜22週未満
→ 胎児として死産(基本的に入院)
→ 役所に死亡届を提出し埋葬許可をもらう
12〜22週未満の場合は、死産という出産のカテゴリーになりますので、出産育児一時金(42万円)を受け取ることができます。
しかし、中絶手術は女性の身体にとてつもない負担をかけるため、1日でも早く決断することが望ましいのは言うまでもありません。
死因究明のためのCT撮影
死因究明のための画像診断(CT撮影)は、保険給付の対象外です。
健康保険は「生きている人」を支え合う仕組みという考え方をしているからです。
不審死や異常死をした場合、警察や司法の判断で解剖されることがありますが、日本では解剖数が圧倒的に少なく犯罪を見逃しているのではないか?という課題意識から、有り余るCTの活用がフィーチャーされました。
過去には「チーム・バチスタ3 アリアドネの弾丸」でもテーマとして取り上げられていましたね。
とはいえ、健康保険とは別に補助金や助成金で扱われるだけです。
健康保険は生きている人のためのもの。健康保険の大原則のうちの一つです。
まとめ
さていかがでしたか。病院に受診する立場では、健康保険の給付の範囲はあまり意識したことがないかもしれません。
しかし、医療事務の現場ではさまざまな理由で受診する患者さんがおり、ときには毅然とした態度で「これは保険は使えないんです」と説明する必要があります。
そのときに、なぜ健康保険が使えないのか?という理由、考え方を知っておくと、ちゃんと説明することができるので、きちんと学んでおきましょう!
健康保険が使えそうな「病気や怪我」だけど、こういう場合には健康保険が使えませんよ!という「給付制限」という考え方もあるので「保険の給付制限とは?健康保険が使えない理由」を読んでください!
保険の給付制限とは?健康保険が使えない理由